Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 気づけば、想乃は背中にシーツを押し付けられたまま、男を見上げていた。

 男は想乃に馬乗りになり、細い手首を万歳の形で押さえつける。

 男は片手しか使っていないのにびくともしない。腕が痺れるほど力を込めても、指一本動かなかった。

 頭の中が真っ白になり、鼻の奥がツンと痛くなる。目の縁から涙が染み出し、耳へ向かって流れていく。次から次に溢れて、止まらなくなる。

「……そそるなぁ」

 男が舌舐めずりをし、目を細めた。「今回の子は当たりだな」と言い、空いた方の手で想乃の涙をすくい上げた。

「確か、初めてだったよね? 大丈夫、大人しくしてくれれば痛くはしないから」

 ——いや……っ!!

 叫びたいのに、喉が完全に閉ざされて声が出ない。想乃は歯を食いしばり、ぎゅっと目をつぶった——そのとき。

 ドンと扉の開く音が響いた。

「っな!?」

 男が大袈裟に肩を跳ね上げた。その拍子に想乃を押さえつける力が緩まった。

「警察だ!」

 目つきの鋭い男が警察手帳を翳し、ツカツカと歩いてくる。背広を着た私服警官だ。そして、その背後に、慧弥の姿が見えた。

 想乃は涙に濡れた瞳を見開き、慧弥を見つめる。

 慧弥は想乃の無防備な姿を見て、即座に自分のコートを脱いだ。顔を引きつらせながら、想乃に羽織らせる。
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