Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「……け、慧弥さん」

 なんで……?

 慧弥は目を赤くし、額には青筋を浮かべていた。

 男は抵抗する間もなく押さえつけられ、手錠を掛けられた。

「婦女暴行未遂の現行犯で逮捕する」

 間一髪で助かったのだと、ようやく頭が理解する。想乃は安堵から顔を崩し、大粒の涙を落とした。

 怖かった……本当に。このまま死んでしまうんじゃないかと思った……っ。

「くそ」と男が吐き捨てた。「あとちょっとだったのに」。チッと舌打ちしながら、想乃をなめるように見る。唇を舌で舐めて、にやにやと笑っている。

 慧弥が立ち上がり、警官の肩を突き飛ばした。そのまま、男に拳を叩き込んだ。

「おい! 慧弥っ!」

 警官が叫んだ。

 男は拳を受け、よろめいて尻餅をついた。「いって」と言いながら、未だにヘラヘラと笑っている。

「やめろ!」と制止し、警官は再び殴りかかろうとする慧弥を後ろから羽交い締めにした。

「コイツ! ぶっ殺してやる……っ!」
「状況から見て未遂だ! それ以上殴るとおまえも罪に問われるぞ!」

 荒い息を吐き、なおも殴ろうとする慧弥を見て、男がケラケラと笑った。

 私服警官が慌てて男を連行していった。慧弥は想乃の服を探し、想乃がきちんと着替えるのを待ってから部屋を出た。

 慧弥に支えられながら外に出ると、一台のパトカーが停まっていた。そばには女性警官が立っており、想乃に気づいて声をかけた。

「お怪我はありませんか?」
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