Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 慧弥はそっと想乃の肩を抱き、ゆっくりと向かい合わせるように動かした。そして、涙に濡れた顔を覗き込む。頬を伝う雫を指で拭い、頭を優しく撫でてくれた。

 そのまままた抱き寄せられ、しばらく無言で彼の胸に顔を埋めた。

 怖かった……。あのタイミングで慧弥さんが駆けつけてくれなかったら、私はきっと壊れてた。

 慧弥の胸の中でさめざめと泣き、涙とともに恐怖を少しずつ洗い流していく。

 慧弥さんが好き。大好き……っ。改めて、そう思った。

 彼にこれ以上ハマってはいけないのに。いずれ終わってしまう関係なのに。なのに、彼との未来をこれでもかというほど切望してしまう。

「想乃の幸せは、俺がずっと守るよ。ずっと、ずっとね……」

 ……ずっと?

 その言葉が妙に引っかかり、心に小さな棘を残した。

 慧弥の車で自宅へ送ってもらうことになり、帰りに郷の分も含めて三人分の夕食を買った。

 慧弥は運転しながら、ホテルに駆けつけた私服警官の話をし始める。想乃は鋭い目つきをした、どこか野生的な男性のことを思い返した。

「あいつは水沢拓司。昔からの親友で、信頼してる。前に姉さんからも聞いてるよね? 捜査二課の刑事なんだ」

 沈んだ想乃を少しでも元気づけようと、慧弥が明るい声を出した。

 想乃は俯きながら、ぽつりと呟いた。
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