Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 スニーカーの踵を鳴らしながら、郷は軽く肩をすくめる。

「姉ちゃんはさ……いいじゃん、ゆっくりしてれば」

 それこそ、余計な気遣いに思えた。

 想乃が帰るときはいつも慧弥に送ってもらう。荷物と一緒に郷も乗せてもらえば済む話だ。それなのに、郷はそれを避けるようにしている。

 きっと、郷なりの気遣いなのだろう。そう思い、想乃は小さく嘆息した。

 玄関で郷を見送り、戸口から寝室を確認する。慧弥はまだ静かに眠っていた。

 彼の安らかな寝顔を見て、少しの間だけ気を抜くことにする。

 洗面所に向かい、鏡を覗き込んだ。ぼさぼさの髪を手ぐしで整え、寝癖を直す。すっぴんのままでいるのも気が引けて、ほんの気持ち程度にメイクを施した。

 再び寝室へ向かおうとした、そのとき——

「……うっ」

 苦しげな呻き声が聞こえた。想乃の心臓が跳ねる。慌てて寝室へ戻り、ベッドのそばへ駆け寄った。

 慧弥は眠りながら、顔を歪めている。額には冷や汗が滲み、唇が小さく震えていた。何かから逃げようとするかのように、頭を無意識に枕へ押し付けている。

「や、めろ……っ、来るな……っ」

 掠れた声が、喉の奥から漏れる。

 何か悪夢を見ている——そう直感した。

「慧弥さん……?」

 囁くように名前を呼んでみる。

 けれど、彼の苦しげな表情は変わらない。何かに囚われたように、うなされ続けていた。

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