Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 どうしよう。
 どうすればいい? 起こしたほうがいいの? それとも、このままそばにいるべき?

 何もできず、ただ立ち尽くすことしかできない自分が、もどかしくて仕方がなかった。

 胸の奥が、締めつけられる。

 慧弥の悪夢がどんなものなのかはわからない。ただ、今目の前で彼が苦しんでいることだけは確かだった。

 助けてあげたい……。けれど、どうすればいいのかわからない。

 震える指先を、そっと彼に伸ばしかける。触れていいのかすらわからず、またためらった。

 慧弥さん……っ。

 心の中で彼の名を呼ぶ。無力感が胸を締め付けた。

 やはり、起こした方がいいのかもしれない。これ以上、慧弥が苦しむのを見るのが怖かった。

 意を決し、想乃はそっと慧弥の肩に触れる。

「慧弥さん」

 優しく、それでいてしっかりと呼びかけた。

「お願い、慧弥さん、起きて……?」

 額にかかる髪をそっと払う。その瞬間——。慧弥の目が見開き、想乃の手を乱暴に振り払った。

「俺に触るな!」

 低く鋭い声が、静寂を切り裂く。睨みつけるような視線に、想乃の指がかすかに震えた。

「……あっ」

 叩き落とされた手の余韻が、皮膚にじんわりと残る。二人の呼吸だけが、張り詰めた静寂に溶けていった。

 想乃の眉が頼りなく下がる。丸い瞳があっという間に潤み、頬に一粒、また一粒と雫がこぼれ落ちた。
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