Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 想乃は慌てて身を引いた。思わず泣いてしまった自分が嫌で、慧弥から離れようと思った。

 その拍子に腕を掴まれる。

「ごめん!」

 慧弥の声が震えた。慌てて身を起こし、立ち去ろうとする想乃を、後ろから強く抱きしめる。

「想乃に言ったわけじゃないんだ……っ」

 掠れた声が耳元で響く。

「ごめん……」。いつもの余裕さは微塵も感じられなかった。

 慧弥の腕の中で、想乃は少しの間、彼の鼓動を感じていた。

 *

 慧弥が目を覚ましたので、想乃はスポーツドリンクを持ってきた。

「何か、軽く食べませんか?」

 そう促すものの、慧弥は軽く首を振り、浴室へと向かった。

 シャワーを出す音が響いた。

 大丈夫なのかな……。

 想乃はリビングで待ちながら、さっきの出来事を思い返す。

 慧弥の「俺に触るな」という言葉、睨むような視線、そして乱暴に払いのけられた手——。

 あれは、夢と現実の狭間で、何かに怯えているようだった。

 深く考えすぎてしまいそうになり、想乃は小さく頭を振った。

 しばらくして、慧弥がリビングに戻ってきた。

 ブランドロゴの入ったスウェットに着替え、まだ少し疲れたような表情をしている。

 慧弥はキッチンへ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。ペットボトルのキャップをひねり、一気に喉を潤す。

 想乃はそっと近寄り、彼の様子を窺った。

「……もう、大丈夫なんですか?」
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