Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 まるでホール全体が、音楽そのものに染められていくような感覚。

 想乃は息を詰め、ふわりと響く旋律に耳を傾けた。

 音の渦に身を委ねる。

 言葉にできない感動が、胸にじんわりと広がっていく。

 ふと隣を見ると、慧弥も静かに目を閉じ、その音色に聴き入っていた。


 *

 美しい余韻が、まだ耳元に残っている。

 想乃は静かに息を吐きながら、立ち上がった。

 オーケストラの演奏は圧巻で、音楽に包まれる時間の幸福感がまだ全身に染み渡っている。

 隣を見ると、慧弥も満足そうに微笑んでいた。

「素晴らしかったですね。音の厚みとか、空間に広がる反響なんかが、まさに生演奏って感じで」
「うん。ホールならではだよね? 特に最後の盛り上がりが良かったし、思わず鳥肌が立ったよ」

 そんな何気ない会話を交わしながら、二人は人の波に紛れ、ホールの出口へと向かう。

 ちょうどロビーへ出たところで、不意に慧弥を呼び止める声が響いた。

「あれ、並樹常務じゃないですか」

 想乃は足を止め、声のした方向へ振り返る。

 そこには、陽気な笑みを浮かべた一人の男性が立っていた。

 二ヶ月前のパーティーで慧弥から紹介された、彼の同期、塚口竜成だ。

「……ああ、誰かと思えば」

 慧弥は笑みを浮かべ、落ち着いた声で応じる。
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