Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 慧弥が慧を見つめ、「このたび子供を授かりました」と報告する。

「現在妊娠三ヶ月」で、「少しつわりもある」、「予定日は十一月下旬ごろ」と端的に伝えると、慧がナイフとフォークを置いた。

 想乃は並樹家一同がどんな反応をするのか、緊張しながら見守った。

 慧は静かに頷き、「そうか」とただ一言。その声音には特別な感情をにじませることはなかったが、少なくともネガティブな意思は一切感じられない。

「よかったじゃないか。賑やかになる」

 その言葉に、想乃は少しだけ肩の力を抜いた。

 しかし、安堵する間もなく——。

「だから散々言ったでしょう?」

 黎奈の冷ややかな声が響いた。

 彼女はため息をつきながら、弟をじろりと見据える。

「のんびり構えてるから、妊娠させちゃうし、結婚式も延期になるんじゃない?」

 その瞬間、慧弥の隣に座る想乃は、彼の微かな硬直を感じた。

 慧弥は無言だった。フォークを持ったまま、ただ皿を見つめている。

「全く、子作りするなら式が終わってからが理想的なのに」

 さらに続ける黎奈。

 そのまま、今度は想乃に向かって、少し申し訳なさそうな顔になる。

「ごめんなさいね、想乃ちゃん。気の利かない弟で」
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