Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 液晶パネルに浮かび上がる慧弥の言葉を見て、郷は小さく嘆息した。きっと彼は、ふっと笑っているに違いない。

「向こうの慧弥さんから、ナミキホールディングスの運命を左右した、あの事故について触れられました。木場さんが運転していた社用車が、男児を撥ねた事故です」

【そうか】
【郷は何と答えた?】

「もちろん、曖昧にはぐらかしました。でも……向こうの慧弥さんには無意味だったかもしれません」

【あれさえ無ければ、確かに】
【俺と姉さんが対立することはなかっただろうね】

「……はい」

 郷は神妙な面持ちで頷いた。

 黎奈の夫・晴彦が起こした事故——それが慧弥と黎奈の姉弟関係に深い溝を作った。

 事故当日、本来なら運転を担当するはずだったのは慧弥だった。しかし、急な仕事が入り、専務である晴彦が代わりを申し出た。

 だが、その選択が悲劇を招いた。

 事故によって会社のイメージは失墜し、株価にも大きな影響を及ぼした。

 世論の反発を考え、何らかの責任を取らせるべきだと社長に進言したのが慧弥だった。

 晴彦はその後、心身を病み、鬱状態に陥った。

 ——この世界では、黎奈は慧弥を恨んでいる。
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