Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 だが、決断の時は迫っている。

【会社の運命と】
【駈を頼んだよ、郷……】

 液晶パネルに浮かぶ最後の言葉を見つめ、郷は迷いを断ち切る。

 隣に立つ駈に目配せすると、彼もまた小さく頷いた。

 ——すべては、既に決められた未来なのだから。


『脳波スキャン、完了……意識データのデジタル変換、開始』

 オペレーターの冷静な声が響く。

 装置が起動すると、ポッド内部が一瞬、無音になった。
 次の瞬間——慧弥の脳の神経活動が、データの奔流となって流れ出す。

 デジタル化された意識は、微細な光の粒子となり、ポッドの周囲を漂い始めた。
やがて、それらは装置のコアへと収束し、“データとしての慧弥の意識”が形成されていく。

 モニターには、量子もつれが発生した証として、過去の世界線にいる慧弥の脳波と完全に一致する波形が表示される。

「ワームホール、開きます……!」

 郷の緊迫した声が響く。

 装置のコアが青白い光を放ち、ポッド内部に静電気のような微細な火花が散った。

「意識データ、転送開始!」

 駈が制御パネルのスイッチを押し込む。

 コアの中心に収束していた光の粒子が、逆流するように弾け飛び、ポッドの天井へと渦を描いて吸い込まれていく。

 ワームホールが形成される瞬間、空間が歪んだ。
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