Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 想乃は小さく手を振り、それを断った。この時間にカフェインを取ると本当に眠れなくなる。

「デカフェもあるけど?」

 想乃の気持ちをまるまるお見通しな彼に「え」と声が上ずる。並樹はにっこりと微笑み、スタッフに想乃のぶんもオーダーした。

 頼んだ料理を全て食べきり、想乃はナフキンで口を拭った。「あの」と声を出す。

「訊いてもいいですか?」
「どうぞ?」
「並樹さんのおっしゃる仕事の件、というのは?」

 うん、とひとつ頷き、並樹が机上で手を組んだ。

「浅倉さんにはある仕事を依頼したいと思ってる」
「仕事の依頼……?」
「そう。俺の婚約者(フィアンセ)のふりをしてもらいたいんだよね」
「……ふぃ、」

 想乃は驚きからまた表情を固めた。目を見張り、次に続ける言葉を探している。

 沈黙の合間にオーダーしたコーヒーがふたり分運ばれる。並樹はコーヒーに砂糖をひとつ入れてミルクを注いだ。想乃も同じようにしてスプーンでくるくるとかき混ぜている。

「自分のことを全く話さないままになっていて申し訳ないけど。【ナミキホールディングス】っていう会社は知ってるよね? 清掃業でも来ていたし」
「あ、はい。ときどきコマーシャルを観たりして耳で聞く程度ですけど。知ってます」

「そう。父がそこの二代目になるんだけどね」と言い、並樹が会社についての概要を教えてくれる。
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