灰を被らないシンデレラ
もちろん就職活動に役立たせる為と言ったのは嘘ではない。
けれどあの広い部屋で長い間1人で居ると、どうしても余計なことばかり考えてしまう。
幼い頃、どれほど待っても帰ってこなかった両親。
家政婦や家庭教師達も帰宅して誰もいない中1人で食事をして、お風呂に入って冷たい布団で夜の闇に怯えながら眠る。
柊から帰宅が遅くなると連絡を受ける度に思い出すのはそんな昔の記憶ばかりで、このままずっと自分は永遠に1人ぼっちなのかと、そんな錯覚に陥ってしまうのだ。
けれどそんな我儘を柊に言えるはずもなく、というか言うつもりなど微塵も無かった。
そもそもついさっきまでは寂しいという自覚も無かった。
だからぽろりと口にしてしまった言葉に憂自身も驚いていた。
「ご、ごめん!間違えた。ちょっと、ほんのちょっとだから。柊さんの仕事の邪魔をしたいわけじゃないの。だから気にしないで」
体の前で大きく手を振って誤魔化す。
運転中で柊の表情はよく分からない。
けれど粗野な物言いをしながらも憂の気持ちも尊重してくれる彼の事だから、余計な気苦労をかけさせてしまったかもしれない。