〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
    【第二部】




 *登場人物*


松本美夜《まつもと みや》
…17歳。
第二部及び、ミドエンシリーズの表の主人公

佐倉佳苗《さくら かなえ》
…17歳。美夜の幼なじみ

        *


──神様って不公平よねー。あたしもあんたみたいな顔に産まれたかった──


 埼玉県 蕨《わらび》市。埼玉県東部の人口七万人弱の小さな街で松本美夜は生まれ育った。

 小さな顔に白い肌、整った目鼻立ち。スラリとした細い体躯。恵まれた美夜の容姿は、この狭い街では特に目立った。

幼い頃は祖父母の世代にはべっぴんさんだと誉め称えられ、中学に上がる頃には隣街の男子高校生や中学生が美夜を一目見るために、中学の校門前に群がっていた。

だけど美夜は自分の顔が嫌いだった。望んでこの顔に生まれてきたわけじゃない。そもそも、生まれたくて生まれてきたんじゃない。

 美夜の家庭は裕福ではあったが、家族仲の良い家庭ではなかった。
父親は市役所の職員、母親は隣街の川口市の高校で教師をしている。兄弟姉妹はいない。

両親はどちらも厳格な性格で、美夜は文武両道、礼儀作法を厳しくしつけられてきた。

 成績は常にトップでなければならない、髪は染めるな、ピアスも化粧も言語道断、異性とは軽はずみに交流するな……松本家にはそんな禁止事項が数多く存在した。

友達と遊ぶ時間もなく塾に通い、異性との交流を禁じられている美夜には交際経験もない。高校生になってもなお、美夜は親の言いつけに縛られながらの窮屈な毎日を過ごしていた。

 美夜には近所に住む幼なじみがいる。小学校、中学校と同じ学校に通っていた幼なじみの名前は佐倉佳苗。

 佳苗はなんでも欲しがる女だった。

小学生時代に美夜がお小遣いを溜めて買ったキラキラのラメペンのセットも、祖父に買ってもらって大事にしていたテディベアも、いつの間にか佳苗の部屋にあった。いつの間にか佳苗に盗まれていた。

 佳苗の両親は一人娘の佳苗に過剰に甘かった。溺愛と言ってもいい。
我慢を知らずに甘やかされてきた佳苗は、欲しいものはなんでも与えられた。手に入らないものなら、どんな手を使っても手に入れようとした。

 そして佳苗は美夜の持っているものを強く欲しがっていた。ラメのペンセットもテディベアも洋服も、佳苗は美夜の持ち物を盗むことに一種の快感を覚えていた。
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