〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
 友達も、唯一できた好きな人も、美夜は佳苗に奪われてきた。
小学生の時に美夜が仲良くしていた友達は、ある日を境に美夜を無視するようになった。それは後から知ったことだが、その子の悪口を美夜が言っていたとデタラメな嘘を、佳苗がその子に吹き込んだから。

 中学生の時に初めて出来た好きな人は、同じクラスの男子生徒だった。その男子も美夜に好意を寄せている節があった。

異性との交流は禁止と親に言われていても、その人とだけは美夜はメールアドレスを交換し、メールや電話をしていた。付き合っていると言っても間違いではなかった。

だけどその淡い恋も佳苗は奪っていく。

 佳苗がその男子に、美夜が浮気をしていると嘘を吹き込んだのだ。中学生の恋は儚く脆い。たったひとつの嘘で美夜の初恋はあっけなく終わってしまった。

 周りからは、美夜と佳苗は“仲の良い幼なじみ”と思われていただろう。佳苗は外面がいい。大人の前ではイイコに振る舞う。

美夜の両親も佳苗のことはイイコ、イイコと可愛がり、佳苗に物を買い与えてやったりもしていた。
みんな佳苗のことは甘やかす。どんなにワガママに振る舞っても許される。佳苗はいつも女王様だった。

 ことごとく美夜の持っているものを欲しがる佳苗がひとつだけ、美夜から奪えないものがある。それが美夜の顔だった。


 ──本当はあんたの顔が欲しいのよねー。いいよね美夜は。美人だ美人だってちやほやされて。どうせ、私は綺麗よって思ってるんでしょ?──


“あんたの顔が欲しい” 幼い頃からの佳苗の口癖。

 佳苗の容姿はお世辞にも整ってるとは言えなかった。大きめの丸顔に重たい一重の目、低いだんご鼻と頬についた肉。
見方によっては愛嬌があるとも言い換えられるが、美人とは決して言われない容姿だ。

体型もスラリとしている美夜とは違い、“ずんぐり”としている。いつもミニスカートを履いている太ももは肉付きがよく、日に焼けていた。

 高校生になり化粧を覚えた佳苗は二重ノリで無理やり二重を作り、つけまつげやマスカラを駆使して作り上げたひじきのような睫毛、厚塗りのファンデーションで肌荒れを隠し、グロスを塗った唇は、揚げ物を食べた後のようにテカテカと光っていた。

 美夜は佳苗が大嫌いだった。そして佳苗が欲しがる自分のこの顔が、大嫌いだった。
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