〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
佳苗と祖父、そして佳苗と父との関係を知ってからの美夜は、祖父と父に対して反抗的な態度をとるようになった。
もともと父のことは好きではなかったが、さらに嫌悪感が増し、大好きだった祖父も汚らわしい存在に変わってしまった。
年が明けた2008年の正月に祖父の家を訪問した時も、ろくに口も利かなかった。
佳苗との“あれ”を美夜に見られていたとは思ってもいない祖父は、一言も話さない美夜を訝《いぶか》しんでいた。
男はみんな汚い。性欲にまみれた生き物。
祖父も父親も、同級生の男子生徒も男性教師も、みんな汚い。
美夜には、周りにいる男すべてが獣《けだもの》の雄に見えていた。
高校二年生の学期を終了して学校が春休みに入った3月。関東地方にも桜の開花が発表され、街は新学期や新年度の準備で忙しなく行き交う人で溢れている。
3月29日土曜日は春の嵐だった。花開いた桜も、この雨で散ってしまうかもしれない。
昼から塾に行っていた美夜は15時に塾を終えて蕨駅前のファミレスで佳苗が来るのを待っていた。
佳苗から29日の土曜日に人と会うから一緒についてきて欲しいと頼まれたのは、先週の日曜日だった。誰と会うのか佳苗は教えてくれず、とにかく一緒に来てほしいの一点張りだった。
佳苗はいつもそうだ。いつも美夜に甘える。
小学五年生の時、佳苗が学校の花瓶を不注意で割ってしまったことがあった。
あの時も先生に謝りにいくのに、ひとりじゃ怖いから一緒について来てと頼まれた。
高校生になっても佳苗は相変わらず、何かあると美夜に付き添いを頼んでくる。
佳苗が本当は人一倍怖がりで臆病者だと知っている。あの子はひとりじゃ何もできない。
今日の佳苗からの頼み事を承諾したのは、佳苗に勉強を教える目的もあった。佳苗とは高校は別々。進学校に通う美夜とは違って佳苗は成績が良い方ではない。
最近は学校もサボっているらしく、高校三年になる今年は大学受験も控えているから勉強を教えてやってくれと、美夜は佳苗の両親に頼まれていた。
佳苗に対して少しだけ優越感を味わえるのは、彼女に勉強を教えている時だけ。
勉強では佳苗は圧倒的に美夜に負けている。わざと難しい教え方をして、佳苗の困る顔を見るのが愉快だった。
そんな小さな、小さなプライドが美夜を守ってくれていた。
佳苗とは16時にファミレスで待ち合わせをしていた。塾のテキストをテーブルに広げ、美夜は英語の問題を解きながら佳苗が来るのを待った。
16時を過ぎても佳苗はファミレスに現れない。遅刻癖のある佳苗が時間通りに来ることは稀であるから、美夜は気にせずに勉強に励んだ。
もともと父のことは好きではなかったが、さらに嫌悪感が増し、大好きだった祖父も汚らわしい存在に変わってしまった。
年が明けた2008年の正月に祖父の家を訪問した時も、ろくに口も利かなかった。
佳苗との“あれ”を美夜に見られていたとは思ってもいない祖父は、一言も話さない美夜を訝《いぶか》しんでいた。
男はみんな汚い。性欲にまみれた生き物。
祖父も父親も、同級生の男子生徒も男性教師も、みんな汚い。
美夜には、周りにいる男すべてが獣《けだもの》の雄に見えていた。
高校二年生の学期を終了して学校が春休みに入った3月。関東地方にも桜の開花が発表され、街は新学期や新年度の準備で忙しなく行き交う人で溢れている。
3月29日土曜日は春の嵐だった。花開いた桜も、この雨で散ってしまうかもしれない。
昼から塾に行っていた美夜は15時に塾を終えて蕨駅前のファミレスで佳苗が来るのを待っていた。
佳苗から29日の土曜日に人と会うから一緒についてきて欲しいと頼まれたのは、先週の日曜日だった。誰と会うのか佳苗は教えてくれず、とにかく一緒に来てほしいの一点張りだった。
佳苗はいつもそうだ。いつも美夜に甘える。
小学五年生の時、佳苗が学校の花瓶を不注意で割ってしまったことがあった。
あの時も先生に謝りにいくのに、ひとりじゃ怖いから一緒について来てと頼まれた。
高校生になっても佳苗は相変わらず、何かあると美夜に付き添いを頼んでくる。
佳苗が本当は人一倍怖がりで臆病者だと知っている。あの子はひとりじゃ何もできない。
今日の佳苗からの頼み事を承諾したのは、佳苗に勉強を教える目的もあった。佳苗とは高校は別々。進学校に通う美夜とは違って佳苗は成績が良い方ではない。
最近は学校もサボっているらしく、高校三年になる今年は大学受験も控えているから勉強を教えてやってくれと、美夜は佳苗の両親に頼まれていた。
佳苗に対して少しだけ優越感を味わえるのは、彼女に勉強を教えている時だけ。
勉強では佳苗は圧倒的に美夜に負けている。わざと難しい教え方をして、佳苗の困る顔を見るのが愉快だった。
そんな小さな、小さなプライドが美夜を守ってくれていた。
佳苗とは16時にファミレスで待ち合わせをしていた。塾のテキストをテーブルに広げ、美夜は英語の問題を解きながら佳苗が来るのを待った。
16時を過ぎても佳苗はファミレスに現れない。遅刻癖のある佳苗が時間通りに来ることは稀であるから、美夜は気にせずに勉強に励んだ。