〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
口をヘの字に曲げた城戸信平が乗り込んだエレベーターが警視庁の一階ロビーに向けて下降する。
聴取の間、九条は城戸の対応を美夜に任せて一言も発言しなかった。
『……クソッ。あの男めちゃくちゃ腹立つ。恋人が殺されたって言うのにデリヘルのことをネチネチと……お前が借金がどうとか言うから、被害者がデリヘルやるはめになったんだろうがっ。しかも二股かけて最低最悪な男だ』
今日の九条は気が立っている。口を開けば城戸への当たりが強くなると美夜も九条もわかっていた。
「金を貢がせる側も貢ぐ側も同罪だと思う。城戸が最低最悪なのは同感」
『被害者が可哀想にならないのか?』
「感情は冷静で公平な判断を奪う。殺されて可哀想だとは思うよ。千尋のお腹の子もね。だけど感情だけで捜査を進めるのは危険。感情が邪魔をして、真実が見えなくなる」
エレベーターホールに憮然と立ち尽くす九条に背を向け、美夜は足早に廊下を進む。追いかけてきた九条は張り合うように美夜と歩幅を並べた。
『お前は去年の合同捜査の時から変わらないな』
「九条くんもね」
警視庁に異動する前は美夜は目黒警察署、九条は代々木警察署に勤務していた。二人が初めて対面したのは、昨年に目黒区と渋谷区で発生した強盗殺人事件の合同捜査本部だ。
『初めて会った時から神田とは絶対に合わない予感があった』
「私も正義感が暑苦しい人だと思ってた。一番苦手な体育会系タイプ」
『うるせぇガリ勉インテリ』
「筋肉バカは黙ってて」
何故、美夜のバディが九条だったのか。
今年度捜査一課に配属された新人は五名。他の三人はそれぞれ別の班に散り、三人がバディを組む相手も先輩刑事だ。美夜と九条だけが新人同士のバディとなった。
「本題に戻るよ。城戸にしてみれば千尋は金鶴。殺すとは思えない」
『本当は妊娠を知っていたなら? 子どもを産む産まないで揉めて……もねぇよな。腹の十字傷は間違いなく切り裂きジャックの仕業だ』
城戸の反応を見れば妊娠を知らなかったことは一目瞭然だった。千尋が産婦人科の受診をしたのは殺される1週間前。
まだ城戸に妊娠を告げていなかったと思われる。
「城戸がアリバイを言うのを渋った理由には呆れたけどね」
『浮気相手がアリバイ証人って言うのもカッコ悪い話だ』
千尋の死亡推定時刻である16日の18時から21時の間、城戸は女と一緒にいたと証言している。
妊娠を告げたとしても城戸に堕胎を要求されるか、別れを切り出されていたか。
千尋にとってはどの道を選んでも報われない結末だ。
聴取の間、九条は城戸の対応を美夜に任せて一言も発言しなかった。
『……クソッ。あの男めちゃくちゃ腹立つ。恋人が殺されたって言うのにデリヘルのことをネチネチと……お前が借金がどうとか言うから、被害者がデリヘルやるはめになったんだろうがっ。しかも二股かけて最低最悪な男だ』
今日の九条は気が立っている。口を開けば城戸への当たりが強くなると美夜も九条もわかっていた。
「金を貢がせる側も貢ぐ側も同罪だと思う。城戸が最低最悪なのは同感」
『被害者が可哀想にならないのか?』
「感情は冷静で公平な判断を奪う。殺されて可哀想だとは思うよ。千尋のお腹の子もね。だけど感情だけで捜査を進めるのは危険。感情が邪魔をして、真実が見えなくなる」
エレベーターホールに憮然と立ち尽くす九条に背を向け、美夜は足早に廊下を進む。追いかけてきた九条は張り合うように美夜と歩幅を並べた。
『お前は去年の合同捜査の時から変わらないな』
「九条くんもね」
警視庁に異動する前は美夜は目黒警察署、九条は代々木警察署に勤務していた。二人が初めて対面したのは、昨年に目黒区と渋谷区で発生した強盗殺人事件の合同捜査本部だ。
『初めて会った時から神田とは絶対に合わない予感があった』
「私も正義感が暑苦しい人だと思ってた。一番苦手な体育会系タイプ」
『うるせぇガリ勉インテリ』
「筋肉バカは黙ってて」
何故、美夜のバディが九条だったのか。
今年度捜査一課に配属された新人は五名。他の三人はそれぞれ別の班に散り、三人がバディを組む相手も先輩刑事だ。美夜と九条だけが新人同士のバディとなった。
「本題に戻るよ。城戸にしてみれば千尋は金鶴。殺すとは思えない」
『本当は妊娠を知っていたなら? 子どもを産む産まないで揉めて……もねぇよな。腹の十字傷は間違いなく切り裂きジャックの仕業だ』
城戸の反応を見れば妊娠を知らなかったことは一目瞭然だった。千尋が産婦人科の受診をしたのは殺される1週間前。
まだ城戸に妊娠を告げていなかったと思われる。
「城戸がアリバイを言うのを渋った理由には呆れたけどね」
『浮気相手がアリバイ証人って言うのもカッコ悪い話だ』
千尋の死亡推定時刻である16日の18時から21時の間、城戸は女と一緒にいたと証言している。
妊娠を告げたとしても城戸に堕胎を要求されるか、別れを切り出されていたか。
千尋にとってはどの道を選んでも報われない結末だ。