〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
腕時計の針の場所は12時16分。学校もそろそろ昼休みの時間だ。
「担任がいたら会うだけ会ってみない?」
『お前、明日美や千尋よりも絵茉にこだわってない? 俺が千尋の職場の近くに絵茉の母校があるって言った時も、学校の位置確認してたよな』
「絵茉だけなのよ」
『何が?』
公園を離れて、校舎の方向に足を向けた美夜の横を春の匂いが通過する。ひとつに結っていたゴムの拘束を解かれた黒髪がサラサラと風になびいた。
「……殺意を感じたのが」
この手の犯罪を犯す人間は、一概に殺す相手は“誰でもよかった”と口走る。たまたま側を通りかかったから、たまたま見た目が好みだったから、くだらない理由を並べて平気で人を殺す。
前田絵茉の腹部に刻まれた十字架を見た時に感じた明確な殺意。絵茉だけは、“誰でもよくなかった”のだとしたら?
この事件の中心は明日美でも千尋でもない。
鍵はおそらく絵茉にある。
門扉の前で荒川第一高校に通話を繋げる。話術の上手い九条が来訪の経緯を電話口で説明しても、なかなか話が通らない。
少々手こずりはしたが、交渉数分で面会許可が降りた。
『教頭が対応に出たんだけど、本当に警察なのかすっげぇ疑われた。絵茉の事件があった直後に週刊誌の記者が学校に来て色々聞き回ったらしい』
「本名がわかれば出身校を見つけるのは容易いからね」
来客用玄関の前に出てきたのは九条と押し問答を繰り広げた教頭だ。まだ授業時間のようで校内は静かだった。
『マスコミにも散々問い詰められましたがね、卒業した生徒のことを聞かれても困るんですよ。話せる内容なんて成績や素行態度くらいなものですし、下手なことを喋ればあちらの親が黙っていないでしょう』
マスコミに嫌気が差している教頭は警察の来訪も歓迎しない。美夜も九条もぞんざいな扱いには慣れていた。
手放しに警察を歓迎する学校も企業もない。警察はいつだって厄介者だ。
美夜達を会議室に通した教頭は小言を言いつつもコーヒーを出してくれた。
室内にチャイムが響く。12時35分、今から昼休みが始まる。
「ここは昼休みが12時35分からなのね」
『俺の高校は12時45分だった。神田は?』
「12時50分」
『うわー。腹減りそう』
学校によって昼休みの時間は違う。会議室の外の世界は、昼食に浮かれる生徒達のお喋りで溢れている。
「担任がいたら会うだけ会ってみない?」
『お前、明日美や千尋よりも絵茉にこだわってない? 俺が千尋の職場の近くに絵茉の母校があるって言った時も、学校の位置確認してたよな』
「絵茉だけなのよ」
『何が?』
公園を離れて、校舎の方向に足を向けた美夜の横を春の匂いが通過する。ひとつに結っていたゴムの拘束を解かれた黒髪がサラサラと風になびいた。
「……殺意を感じたのが」
この手の犯罪を犯す人間は、一概に殺す相手は“誰でもよかった”と口走る。たまたま側を通りかかったから、たまたま見た目が好みだったから、くだらない理由を並べて平気で人を殺す。
前田絵茉の腹部に刻まれた十字架を見た時に感じた明確な殺意。絵茉だけは、“誰でもよくなかった”のだとしたら?
この事件の中心は明日美でも千尋でもない。
鍵はおそらく絵茉にある。
門扉の前で荒川第一高校に通話を繋げる。話術の上手い九条が来訪の経緯を電話口で説明しても、なかなか話が通らない。
少々手こずりはしたが、交渉数分で面会許可が降りた。
『教頭が対応に出たんだけど、本当に警察なのかすっげぇ疑われた。絵茉の事件があった直後に週刊誌の記者が学校に来て色々聞き回ったらしい』
「本名がわかれば出身校を見つけるのは容易いからね」
来客用玄関の前に出てきたのは九条と押し問答を繰り広げた教頭だ。まだ授業時間のようで校内は静かだった。
『マスコミにも散々問い詰められましたがね、卒業した生徒のことを聞かれても困るんですよ。話せる内容なんて成績や素行態度くらいなものですし、下手なことを喋ればあちらの親が黙っていないでしょう』
マスコミに嫌気が差している教頭は警察の来訪も歓迎しない。美夜も九条もぞんざいな扱いには慣れていた。
手放しに警察を歓迎する学校も企業もない。警察はいつだって厄介者だ。
美夜達を会議室に通した教頭は小言を言いつつもコーヒーを出してくれた。
室内にチャイムが響く。12時35分、今から昼休みが始まる。
「ここは昼休みが12時35分からなのね」
『俺の高校は12時45分だった。神田は?』
「12時50分」
『うわー。腹減りそう』
学校によって昼休みの時間は違う。会議室の外の世界は、昼食に浮かれる生徒達のお喋りで溢れている。