重ねる涙の先で仕合せは紡ぐ。
巡の自宅に着き、玄関で靴を脱ぎながら、わたしは「巡、東京行っちゃうの?」と訊いた。
巡は、「だから、ずっと断ってるって言っただろ?最初は曲作りもベーシストとしても専属でついて欲しいって言われたんだけど、そうなると東京に引っ越さなきゃいけなくなるから断ったんだ。そしたら、今度はLIVEをやる予定だから、その時だけでもベーシストとして来てくれないかって話になって、、、それを花恋に相談しようと思ってた。」と困ったような表情をして言った。
巡は、それだけ必要とされてるんだ、、、
そりゃそうだよね、巡には才能がある。
それを引き留める権利が、彼女ってだけで何の取り柄もないわたしにあるんだろうか。
「まぁ、今日のこの時間に来るとは思わなかったけどな。断ったのに、突然来るからビックリしたよ。」
巡はそう言うと、溜め息をつき冷蔵庫を開け、「花恋、何か飲む?」と訊いてきた。
しかし、わたしはそれどころではなく、巡が東京へ行ってしまうかもしれない寂しさから、冷蔵庫前でしゃがみ込む巡の後ろから抱きついた。
「花恋?」
「、、、東京行くなら、どれくらいで帰って来るの?」
「んー、、、リハとかあるし、1ヵ月は帰って来れないかも。」
1ヵ月、、、
そんなに巡に会えないの?
巡なしで1ヵ月も過ごせる自信がわたしには無かった。
今まで1人で過ごしてきたわたしが寂しいだなんて、信じられない。
巡は冷蔵庫を閉めると、クルッとこちらに身体を向け、わたしを抱きしめた。
「花恋が行くなって言うなら、行かねーよ。俺も1ヵ月とはいえ、花恋を1人残して行くのは心配だし。」
そう言う巡の声は優しく、わたしはまた涙が溢れてきそうになっていた。