The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
俺は別に、英雄になりたい訳ではなかった。

彼に憧れて、彼を倣おうとした訳ではない。

ただ俺は、気づいてしまった。

気づいてしまったからには、目を背けることは出来なかった。

気にしないようにしても、どうしても目に入ってしまうのだ。

この国の理不尽と、不平等が。

父とその同僚の堕落ぶり。飢えた人々の目。処刑される人々の叫び。それを見て騒ぎ立てる、空虚な人民達。

どうしてこの国は、こうなってしまったのだろう。

この国の正義は、何処に行ったのだろう。

一度考えてしまうようになってからは、もうやめられなかった。

父や家庭教師に話せば、平手打ちが飛んでくることは分かっていた。

だから、周囲の人間には長い間口を閉ざしていた。

こんなことを考えているなんて、誰にも知られる訳にはいかなかった。

口に出すべきことではないと分かっていた。

だから、あのまま何も起きなければ、俺はきっと…父と同じ道を行っていたはずだ。

己の中に矛盾を抱えながらも、それでも父と同じ、安楽な人生を送ることを選んだだろう。

そちらの方が遥かに楽で、堅実な人生だった。

けれど俺は、その道を選ばなかった。

俺がその道を選ばなかったのは…幼い日の、あの出来事があったからだ。
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