The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
俺だったら、お腹が空いていたとしても、人の食べかけのパンなんて食べない。

それなのに彼女がそれを食べるということは…つまり、それだけ空腹だということだ。

一体どれ程空腹だったら、そんなものに手を伸ばそうとするのだろう。

想像しただけで、ぞっとしてしまった。

俺は、お腹が一杯だから、なんて理由でそれを残したのに。

彼女は、あまりの空腹に耐えかねて、その残飯にこっそり手を出している。

この事実に、俺は愕然とした。

それが理不尽だということくらい、考えるまでもなかった。

「ごめんなさい、若旦那様…。どうか、どうかこのことは…旦那様には…」

トミトゥは、可哀想なくらい怯えた目でぶるぶる震えていた。

使用人が、主人の残飯を勝手に食べていたなんてことが父に知られたら…彼女はどんな目に遭うことか。

それどころか、俺が一言、お前はクビだ、と言えばそれでおしまいだ。

彼女が怯えるのも無理はなかった。

しかし、俺にはトミトゥを罰するなんてこと、考えもしなかった。

主人の残飯を勝手に食べたことなんて、どうでも良かった。

何故彼女が、そんなことまでしなければならなかったのか。

俺が気になったのは、その点だったからだ。

「…トミトゥ。君のしたことを他の人に喋ったりはしない。だから…代わりに、一つお願いを聞いてくれないか」

「な…何を、すれば、良いんですか?」

トミトゥは怯えていた。何をさせられのかと。

そんな彼女の、怯えた目を見つめながら。

俺は切実な思いを、彼女に伝えた。

「…聞かせて欲しいんだ。君達のことを」

そのとき俺は初めて。

自分の下に生きている人達について、知りたいと思った。
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