The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
トミトゥは、全てを話してくれた。

俺と父の華やかな生活の下で、彼らがどんなに苦しんでいるか。

この国の大多数の人間が、どんな苦労の下に生きているか。

その話はどれも、俺の想像を絶するものだった。

住むところも、食べるものも着るものもろくにない、彼女達の生活は…酷く過酷なものだった。

朝から晩まで働き詰め。それなのにもらえる配給券は僅かなもの。

働き過ぎて病気になれば、あっさりと切り捨てられ、治療されることはない。

これは、トミトゥに限った話ではなかった。

この国では、俺のように憲兵局の職員を家族に持つ者以外は、トミトゥのように過酷な生活を余儀なくされていた。

箱庭帝国の少ない資源・資産を全て、憲兵局が独占していたからである。

でも、市民がそれに逆らうことは出来ない。

絶対的な権力を持った憲兵局と、大将軍に逆らえば…即刻殺される。

この国に生きている限り、何処にも逃げ場はない。

逆らえば死ぬ。家族諸とも殺される。

だから、誰も逆らえない。

それが、この国の現状であった。

恥ずかしながら、俺はトミトゥにそれを話して聞かされるまで、そんなことにさえ気づかなかった。

トミトゥから聞く話は、どれも痛ましかった。俺の今の生活とは、大きくかけ離れていた。

何より俺を怯えさせたのは、トミトゥがそれらの話を、ごく当たり前のように、淡々と話していたことであった。

俺にとって今の生活が当たり前であるように。

彼女達にとっても、虐げられることは最早、当たり前になっていた。

こんなに恐ろしいことがあるだろうか?

父が出張で家でいないのを良いことに、俺はトミトゥの仕事を代わらせてもらったことがあった。

トミトゥはやめた方が良いと何度も言ったが、俺はどうしても、彼女達の仕事がどんなものなのか知りたかった。

身を以て、体験してみたかった。

俺は厨房に入って、井戸から水を汲み、泥まみれの野菜を洗うという作業をさせてもらった。

彼女達にとっては、その仕事は特に大変なものではなかった。いつもの日常的な作業だった。

しかし俺にとっては、酷く大変なものだった。

水がたっぷり入ったバケツは、本当に重かった。

井戸に垂れている太い綱はざらざらで、手に擦り傷が出来た。

水は恐ろしく冷たくて、痛いほどだった。

その水で、段ボール箱一杯の野菜を洗わなければならないのだ。

野菜の泥が爪に入って、気持ち悪かった。

ずっと中腰で作業しているから、腰も膝も痛かった。

水の入ったたらいを前に、右往左往している俺を見かねて、トミトゥは何度も、私が代わりますから、と申し出た。

でも、俺は無理を言ってやり遂げた。

なんとか作業が終わった頃には、俺の手はパンパンになっていた。

翌日には、あちこちが酷い筋肉痛で動けないほどだった。

情けないことこの上なかった。

こんな作業を、トミトゥ達は毎日やっているのだ。

同い年で、しかもトミトゥは女の子なのに。

この作業だけじゃない。彼女達はこの上に、更に多くの仕事をこなしている。

それなのに、食事は俺よりずっと貧相なもので、しかもほんの僅かしか食べられないのだ。

これを理不尽と言わずして、他に何と言うのだろう。

そう。この国には、こんな理不尽が当たり前に溢れているのだ。

トミトゥから話を聞くまで、気づくことは出来なかったけど。

同じ人間なのだ。

俺も、父も、トミトゥも。他の使用人達も。

同じ人間だ。同じ箱庭帝国に生まれた人間。

それなのにどうして、こんなに大きな隔たりがあるのだろう。

これはおかしなことじゃないのか。俺はそう思い始めた。
< 37 / 791 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop