The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
とある夜。

その夜、俺の寝室に彼女がやって来た。



「…若旦那様。若旦那様、起きてください」

「ん…」

ぐっすり眠っていたところを、身体を揺すられて目を覚ました。

暗闇の中に、ぼんやりと立っている人影があった。

驚いて飛び起きたところに、聞き覚えのある声が聞こえた。

「若旦那様、私です。トミトゥです」

「トミトゥ…?」

ベッドサイドのランプをつけると、薄明かりの下にトミトゥの顔が見えた。

…何で、こんな時間に。

「どうしたんだ?」

「ごめんなさい、お休みのところ…。お話ししたいことがあるんです」

「話?」

こんな時間に、わざわざやって来て。

一体、何の話をするというのか。

「若旦那様。私…嬉しかったです。私のような庶民の話を親身になって聞いてくださって…。あなたのような人は初めてです」

「…?」

トミトゥは、捲し立てるようにそう言った。

妙に、すっきりした表情をしていた。

「正義を行わなければならないと、あなたは言いました。この国の正義を作るのは…あなただと、私は思ってます。あなたがこの国に正義を作るんです。あなたの志が…いつか、私のような弱者を救うんです」

「トミトゥ…?」

「…私は、そう信じています。だから、あなたはどうか…その志を、失わないだください。…何があっても」

「…」

真に迫ったトミトゥの目に押されて、俺は戸惑いながらも頷いた。

「どうか約束してください。若旦那様…。正義を行うことを諦めないと」

「…分かった。約束するよ」

その約束がどんな意味を持つのか、俺は分かっていなかった。

トミトゥがあんまり真剣な眼差しをしているから、勢いで頷いてしまった。

それでもトミトゥは、俺が頷くと、ほっとしたように笑った。

とても、綺麗な笑顔だった。

「…ありがとうございます。若旦那様」

「…トミトゥ。一体どうしたんだ?」

「…」

トミトゥは何も答えなかった。

答えない代わりに、嬉しそうににっこりと微笑んだ。

「…お休みのところ、申し訳ありませんでした。失礼します」

「…?」

トミトゥはくるりと踵を返した。

…帰るのか?

「約束…忘れないでくださいね」

「?あぁ…」

最後に振り向いたトミトゥの、振り切れたような笑顔を…俺は一生、一生忘れない。
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