The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
「調査の結果、今回使用された毒ガスは、致死性の血液剤。解析した科学班によると、既存のものではなく、自分達で改良し、独自に造ったものだろうとのことです」

アイズが、書類を片手に説明してくれた。

この辺りの説明は、俺達も昨日聞いた。

「皮膚に触れるだけでは効果はなく、ガスを吸い込むことで初めて症状が現れます。少量ならほぼ無害ですが、吸い込んだ量が多いと、呼吸器系や神経系が麻痺し、息が出来なくなったり手足が痺れたりなどの症状が現れ、最悪死に至ります。死ななかったとしても、深刻な後遺症が残ります」

「じゃあルレイアが無事なのは、量が少なかったからか」

「えぇ、そうです。あの場にいた者の中で、重篤な負傷者は全体の7~8%、うち死亡したのは2~3%といったところです。全体の負傷者は40%を越えています」

非常に耳の痛い話である。

「とはいえ、これは迅速な撤退行動があったからここまで抑えられただけで、あと少し対応が遅ければ…死亡者数は更に膨れ上がっていたでしょう」

あのとき…俺がシュノさんに即時撤退を指示しなければ。

あのとき、シュノさんがすぐに撤退を開始してくれなければ。

もっと悲惨なことになっていただろうな。多分…俺とルルシーも。

いやぁ、そう思うと今生きてるのが不思議だなぁ。

「現場の洗浄は?」

「大方終わっています。安全性は確保されていますが、一応…まだ、住民は避難したままです」

「…無理もない、か」

『青薔薇連合会』の本部付近にある住宅だ。そこに住んでる奴らは、マフィアの裏事情に精通している。

そこで毒ガスが撒かれたことも、俺達は隠しているが…薄々何かあったのだ、とは察しているだろうな。

もしかしたら…もう帰ってこないかも。

「国内で化学兵器が使用されたことについては、情報統制を行って隠蔽してある。こんなことはとてもじゃないが、国民には教えられないからな」

「…感謝します」

「ただし…二度三度と重なれば、さすがに隠しきれなくなる」

…でしょうね。

帝国騎士団と言えど、人間の口を全部塞ぐ訳にはいかないのだから。

「…とんだことをしてくれたものだな。マフィア同士の抗争に、我々や無関係の帝国民を巻き込むとは」

アストラエアは、吐き捨てるようにそう言った。
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