The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
勝算が充分あるなら、俺達だってリスクは厭わない。

でも今回…その勝算があまりにも、低い。

リターンに比べてリスクが高過ぎるのだ。

このリターンでは、これだけの危険を犯すに値しない。

俺は箱庭帝国の事情については詳しくはない。だが…敵が少なからず厄介であることは、考えるまでもなく分かる。

憲兵局というのは、とんでもないクズの集団ではあるものの…あれでも、何百年にも渡ってあの国を支配し続けてきたのだ。

つまり、それだけの力はある。

革命を起こそうとしたって、簡単にやられてくれる相手ではない。

そして、何よりも。

「…元々我々には、あなた方の為に命を懸ける理由なんてないんですよ」

「…」

さっきも言った通り。

俺達にとって箱庭帝国の如何など、他人事でしかないのだ。

自分の国なら話は分かる。

しかし、何でよその国の為に命を懸けなければならない?

知ったことじゃない。これが本音なのだ。

充分な見返りが望めるなら、ビジネスとして引き受けないでもない。

でもこの程度では駄目だ。仮にも一国を相手取るには足りない。

俺達は『青薔薇解放戦線』とは違って、現状に不満はない。

余計なリスクを犯してまで、箱庭帝国に進出する必要はないのだ。

俺は大胆なことをするのは好きだが、しかしリスクも考えずに何にでも首を突っ込むことはしない。

それをしたら、ただの馬鹿だ。

だから。

「この件はお断りします」

「…」

『シュレディンガーの猫』のときとは訳が違う。

あのときは、俺達に実害が出ていた。縄張りを荒らされていた。

だから俺達が介入する理由があった。

でも今回は違う。冷たい言い方だが、俺達に現状実害はない。

わざわざ、よその縄張りの喧嘩に首を突っ込む理由はないのだ。

「…お前は幹部だろう。『連合会』の首領には…」

俺達幹部が断っても、首領であるアシュトーリアさんはこの話を受けるかもしれない。

そう思ったのだろうが。

「アシュトーリアさんに持っていくまでもないと思いますよ」

俺達以上に反対するに決まっている。

彼女は、俺達を自らの息子と思っているからな。憲兵局とドンパチすれば、こちら側にも被害が出るのは明白。

アシュトーリアさんは、必要ない抗争で部下を死なせるなんて許さないはずだ。

「一応話をしてやっても良いですが…。期待しても無駄だと言っておきますよ」

「…」

ヴァルタは、無言で唇を噛んだ。

こればかりは…やはり、表社会に生きている者と、裏社会に生きている者の違いだな。

しかし。

「…そうか。まぁ…そうだろうな」

ヴァルタは食い下がることもしなかった。

これは意外だった。

「お前達には我々に味方する動機がない…。こちらとしても、駄目元だったよ」

「…そうですか」

分かってるじゃないか。

惜しいな。これほど話の分かる人間との取り引きは、願ってもないのだが…。

如何せん、相手が悪過ぎる。

「大体あなた達…革命なんてものが、本当に出来ると思ってるんですか?」

俺は彼女達の申し出を断ったのだから、ヴァルタがこんな問いに答える義務はない。

しかし、ヴァルタは親切に答えてくれた。

「さぁな。少なくとも…私はさして期待してないよ」

「…」

これが、革命軍の使者の台詞か。

随分と、頼りないことだ。
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