レンアイゴッコ(仮)
「(……なにを、喜んで、)」

固くなったものが水でふやけて柔らかく、無防備になってしまう。引き締めようとしても、東雲の大きな手が私の頭を包み込むから難しい。

指が私の髪を梳き、丁寧な仕草で撫でる度に私の心は甘く解けていくようだった。

まるで違う。あの時見た光景とは全く。

「(どうしよう、落ち着く……)」

安心感を覚えていると、パタンと玄関の戸が閉まる音がした。同時に背中を引き寄せられる。

よしよしと頭を撫でていたその手はこめかみ、耳、頬へと落ち、頬をむにむにと摘む。しんと静まり返る空間で、私の心音だけが響く。

頬にいたその手が滑るように下に落ち、私の顎を持ち上げる。

メガネの奥にある透明感のある瞳と視線が絡む。

まぶたが落ちていくのを見た。俯くようにまぶたを下ろす。呼吸音さえ静かで、時間がゆっくりと流れている感覚に陥って、東雲の眼鏡のフレームが触れた、その時。


大音量が私と東雲の間で鳴り響き、パチリと目を開けると至近距離で東雲と目が合い、反応速度として最大の速度でお互い離れた。

緊張感に似た束縛から解き放たれ、息を吐き出す。その間、東雲はポケットから取り出した大音量のスマホを床に落とし、イライラした様子で電話に出ていた。

「お前、半年は俺に電話掛けんな」

とか、相手にそれだけ言って勝手に通話を終わらせた。大丈夫なのか、ちょっと不安だ。
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