レンアイゴッコ(仮)
「電話、大丈夫なの?」

その背中に問いただすと、東雲が振り返る。

「腐れ縁。大丈夫」

とは言いつつ、すぐさまスマホは鳴り響く。多分、全然大丈夫じゃない。けれど相反するように東雲の目が死んでいる。

「ねえ、急用かもしれないから出なよ」

「ごめん」

申し訳なさそうに東雲は電話に出た。

「今は電話掛けんな。金曜は無理って前から説明してたのに、俺ん家来るって勝手に決めたの莇あざみ。切る」

「(あざみ?……誰?)」

電話口の口ぶりから推測するに、仕事関係では無さそうだし、気心知れた仲だと伺える内容だけど、私の辞書にはない名前だ。

「(女の名前じゃん……!?)」

また勝手に拗ねてしまう。

完全に電話を切ると、東雲は少しスマホを操作して私に見せた。表示されたのは写真だった。

「電話の男、こいつ。超自己中な男で、さっき、暇だから俺ん家で飲むって言い出して、来るなって言い返しただけだから、全然急用じゃない」

女じゃないし、男だし、それに、

「(類は友を呼ぶ……!)」

東雲が陰ならスマホに映し出されたのは陽のオーラ全開の男性。彼もまた東雲とは真逆のタイプのイケメンだ。

「腐れ縁って?」

「小学校から高校までずっと一緒っていう幼なじみ」

「佐々木さんも知ってる?」

「知ってる。悪いやつじゃないけど、喧しい。いつか会うことがあったら、適当に話し合わせてやって」

「分かった。私にもいるよ、小学校から高校まで一緒の幼なじみ。桜雪(さゆき)って言う超美人で……」

と、言いかけてやめた。私のことなんてあまり興味無いと思うから。

「で?」

けれども東雲は私に踏み込む。

「なんでもない。おじゃまします」

一度引っ込めたものを引き出すのは難しく、振りほどいて強引に家の中へ入った。
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