レンアイゴッコ(仮)
あれ?……無反応?

「どしたの?」

不安から東雲の顔を下から覗き込む。東雲の視線は気まずそうに逸れる。……あれ?

「なんも。先に手、洗っていい?」

「(……なんも?)」

「キッチンでどうぞ」

絶対“なんも”じゃない空気感は伝わっていたけれど、手を洗い終えた東雲は、何故か退こうとしない。

「……ねえ、座っていいよ?」

「ここのがいい」

何故……?

よく分からないけれど、オムライス作りを再開させた。フライパンにバターを落とすと、じゅわりと芳醇ないい匂いが立ち込める。黄金色の卵液を慎重に落とす。一人の時はなんてない手順。隣に東雲がいると、それが、ちょっとだけ狂う。

「手元見ないでよ〜……」

「緊張する?」

「する!……うぁ、破けそう」

言わんこっちゃない。ビリッと破れたオムレツを何とか修復しようと真剣になっていれば、背後に東雲の気配を感じた。

「…………!!」

そう。それから、何故か私の肩口に顎を乗せてくるから、東雲の顔が至近距離に現れてしまい、どくんと鼓動が跳ねた。

「な、なにしてんの?」

「なんも」

「なんも、じゃないよ、近い」

「普通じゃない?」

「普通じゃない!」

東雲と遊んでいたらいつまで経っても終わらなさそうなので、一旦火を止めた。
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