レンアイゴッコ(仮)
「(どうしよ、さっきの話……どう切り出せば良いんだろう……)」

東雲は平然と「そういえば渡したい物があるから、家に行こう」と言ったので行先は東雲の家に決定された。

しかし、一旦温度が冷めた話に温度をもたらすには、先程以上の熱量が必要だと道すがら反省する。もし、無かったことにされたら落ち込む自信がある。

いくらなんでも、あんな場所で、勢いで言っていい言葉じゃなかった……。

「前も話したことがあるかもしれないけれど」

いつものマンションが見えて来たその時、東雲が切り出した。

「優先順位とかも俺が勝手に決めている事だから、妃立が気を遣うことはひとつもないよ」

東雲もまた、無かったことにしない。

「俺のことはいくらでも利用していいし、甘えたら良い。俺はお前を否定しないし、愚痴だって飲みだって付き合うし、会いたいだってすぐに叶える。妃立の言うことだったら、割となんでも聞くから」

面と向かって言われると、くすぐったくて恥ずかしい。

マンションにたどり着く。東雲はエレベーターの上を押すと、行儀よくその手を戻さず、片方の手を掴む。

「……私、わがままだよ」

「素直って言え」

「……東雲の」

「うん」

「東雲の好きな人が、私だったら嬉しい」

「うん」

静かな相槌と共に、エレベーターが迎えに来る。繋いだ手は離れることなく、ぴたりとくっついて乗り込んだ。広々としているのに、どうしてこんなに近付くのか分からない。
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