レンアイゴッコ(仮)
口を結んだ無表情も好きだけど、緩く握った拳で口元を隠し嬉しそうにするその横顔も好きだ。

その横顔をじっと見つめていると「今は見るな」とちょっと気まずそうにする。その顔も愛おしく思ってしまう。

「私、本当に嬉しいんだよ?」

「いや、ちょっと今、夢か現実か分からない。疲れすぎて妄想かなと」

「ねえ、妄想でも夢でもないよ」

「だよな、現実だよな」

エレベーターがたどり着く。扉は外の世界へと繋げる。手を繋いだまま出ると、この先も離れないような気がした。今日くらい、そんな夢を見ても許されて欲しい。

「柑花」

好きな人が私の名前を紡ぐ。胸は福音を鳴らす。

「俺は例え一部でも、柑花の人生に関われたことが嬉しいんだよ」

世界の殆どに諦めて無関心を貫いていそうな男が、その興味を私だけに向けてくれる。

それを言うならば私の人生で、私がいるだけで、これ程喜んでくれる人が居ただろうか。

「だから俺を選んでくれたこと、絶対に後悔させない」

これほど真っ直ぐと気持ちを伝えてくれた人がいただろうか。

「私も、東雲の彼女で嬉しい」

「待って、家で聞く」

「東雲のこと誰にも渡したくない」

「こっちのセリフだ」

「ねえ、好きだよ?」

家の扉を開けると玄関へと連れ込まれ、その扉が閉まるよりも先にくちびるを奪われた。甘い声と吐息を漏らしながら、貪るように口づけあう。

「散々焦らしたの、柑花だからな?」

欲情に濡れた瞳が私を射抜き、劣情を煽られる。

分かっている、から。

「ちゃんと責任、とらせて」

そう言って、東雲の頬に手を添えた。
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