レンアイゴッコ(仮)
手を出すとか、出さないとか。

東雲がいつも通りすぎて、普段と同じ接し方をした挙句、あっさり油断してしまった。

テレビの音だけが聞こえていた。MCの声よりも、自分の心臓の音の方がうるさく感じられる。

無機質な目が私を見据える。いちばん深い夜のような暗い色の瞳は感情を読み取れない。

「……なに、してんの」

警戒心むき出しで喉をひくつかせてながら言葉を紡ぐと、東雲はようやく口の端を持ち上げた。

「慣れてって言った」

「(言われた、けど)」

たしかに要求は認める。けれど、突然この空気を持ち込まれると、心臓へ過剰な負担が掛かって良くない。

「意味、あるの」

苦し紛れに抵抗する。東雲の低い声が心地よく鼓膜に馴染む。


「練習には意味があるんじゃないの」

「……練習って、なんの」

「妃立が俺とはじめる恋愛の練習」


躊躇わずに告げられた言葉に、心臓はキュンと音を鳴らした。

色素の薄い肌、スっと通った鼻筋。小さな顔に収められたパーツ、全部が整っているなとこんな時にも惚れ惚れしてしまう。
< 56 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop