レンアイゴッコ(仮)
定時5分前。宣言通り、計画的に定時上がりを勝ち取れそうだ。東雲はというと、未だパソコンと睨めっこをしている。
「(……あの量、終わるわけないよね)」
当たり前だけど納得する。優しさだけで仕事は終わらない。東雲には申し訳無いけれど、気持ちだけ受け取ることにしよう。
「キリがいいところでみんな上がってね」
「はーい」
部長に進捗の報告を終わらせるとチームの皆に声をかけて、私も帰宅の用意を始めた。デスクの下からバッグを取り出し肩にかけると、首に提げたIDを外す。
東雲のデスクを通り過ぎようとしたその時だった。
「……!」
くんっ、と誰かにスーツの裾を引かれ、前進しようとした身体は故意によりピタリと止まる。
すぐに振り返る。犯人はもちろん東雲だ。
なんの嫌がらせだと口を開こうとすれば、腕を引かれる。
「…………あと五分だけ待って」
ポツリ、私にだけ聞こえるボリュームで耳打ちされ、まさかとパソコンを見遣る。残すところ、最終チェックだけらしい。
「(嘘でしょ、あの量を終わらせたの……!?)」
何度か瞬きする隙に東雲は再びパソコンへと向き合った。
「……わかった。下で待ってる」
「了」
東雲琥珀は有言実行の男らしい。