レンアイゴッコ(仮)
「ありがとうー……」

受け取ったキーリングを両手で大事に包み込み、胸を撫で下ろした。

「その場限りの感情で大事なものを失くすなよ」

胸に刻む。安心した分だけ、自分がどれほど不安だったかを知るというものだ。

「ところで東雲、ちゃんとお家まで付き合ってくれるんだよね?」

話を急カーブさせると、東雲はそんなつもりがなかったらしく「は?」と目を白黒させた。鍵を私に渡してすぐに帰るつもりだったのだろう。強引なのか控えめなのか、東雲はやっぱり分からない。

ということで、ここはこの綺麗な男を誑し込む作戦に出る。

「ここで私一人置いてくのは無責任じゃない?責任もって家まで送って」

本当の理由はお礼なのだけど、素直に誘うことが出来ない私はこんな言い方になってしまう。東雲は少しの沈黙のあと、やがて何かを諦めたように脱力した。

「まあいいけど、少しの粗相は許せよ」

宣誓され、短く悩む。
一体いつから私のボーダーラインは高くなったのだろう。緩かったはずの結び目を固くしたのが東雲ならば、東雲を許したら、これが最後だなんて思わないだろうか。
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