レンアイゴッコ(仮)
「少しだけなら、東雲がしたいことしていいよ」

自分に出来る"精一杯"を振り絞った。それは暴力とも取れる駆け引きと化した。

挑発的な目線で見上げると、突然鼻をむぎゅうと摘まれてしまい慌ててそこを隠した。東雲はまるで蜃気楼でも探しているかのようにやる気のない目でこちらを見ていた。

「お前なあ……自分を雑に扱うんじゃねえよ」

「はあ?東雲が言い出したんじゃないの」

「そうだけど、お前はいつもみたく反発しろよな。調子狂うだろうが」

狂わされているのはこっちなんですけど、と言いたいのを飲み込んだ。確かに自棄だった自覚がある。止めてくれた安堵と疑問。


東雲はどれだけ私を尊重してくれると気が済むのだろう。



久しぶりの我が家。私が東雲の家に行くことがあっても、東雲が私の家に上がるのはほとんど無い。酔いつぶれた私を送り届ける、その程度。


「あ、その辺適当に座って」

「いや、直ぐに帰るわ」

「帰るの?まさか仕事持ち帰ってないよね」

「それはないけど」

「じゃあ良いじゃん。冷蔵庫に卵があるんだけど、消費期限がそろそろだし、かと言って食べきれないから東雲手伝ってよ。そうだな……オムライスなんてどうでしょうか」

自分のプレゼン能力なんて東雲よりずっと低いと分かっていて、手練の男に訴えるように首を傾げた。


「妃立が作るの?」

「もちろん」

「ふうん……じゃあ、食う」


どうやらオムライスに釣られてくれたらしい。
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