異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
(わんちゃんは2人の会話を、わたしに聞かせたかったのかなぁ……?)

 腕の中で抱きかかえているアンゴラウサギは、こちらが気の毒になるほど怯えている。

 ロルティは安心させるように獣の毛並みを撫でながら、曲がり角の先で会話中の男女の声に耳を傾けた。

「あんな小さな子どもを、わ、わたしが……」
「病気の妹を、助けたいのだろう?」
「そう、ですが……」
「言うことを聞けないのであれば、妹を殺す」
「や、やめてください! それだけは……!」
「だったらもっと、静かにしろ! 誰かに聞かれたらどうするつもりだ!」

 メイドに騒ぐなと告げている男が、一番声が大きい。
 穏やかではない単語を耳にしたロルティは、口元をぎゅっと引き結んで思考する。

(あのメイドしゃん……。脅されてるの……?)

 公爵邸は安全な場所だと勝手に思い込んでいた彼女にとって、この会話を耳にしたことは果たして僥倖なのか。

(どうしよう……。パパに相談したら、助けてくれるかな……?)

 身の危険を感じたロルティはすぐさまこの場を立ち去らなければと思うのに、うまく足が動かなかった。
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