異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 大人達がどの程度男の企みを阻止できているかがわからない状況でメイドを追い込むのは、全員の身を危険に晒すだけだ。

「おにいしゃま……」

 ロルティが兄の腕を掴み、メイドの糾弾を辞めるように頼み込もうとした時のことだった。

 ――ガシャンと勢いよく後方の窓ガラスが割れ、外から黒い物体が飛び込んできたのは。

「きゃあ!」
「わふ!」
「ロルティ……!」

 壁際に控えていたメイド達の悲鳴、侵入者の来訪を告げる犬の鳴き声。
 そして愛する妹の危機を悟った兄が、彼女の名を呼ぶ声が一斉に聞こえる。

(何が起きたの?)

 ジュロドにベッドの上へ押し倒されたロルティは、彼の肩越しに目線だけを動かして状況把握を試みる。

「カイブル!」
「こちらは問題ありません!」

 騒ぎを聞きつけやってきたのだろう。

 カイブルは黒いローブを纏った男と剣を交え、交戦中のようだ。
 彼の背には床の上に腰が抜けてへたり込むメイドの姿があり、護衛騎士は彼女を守っているらしい。

「ロルティ……。怪我は、ない……?」
「わたしは、大丈夫。おにいしゃまは……?」

 ロルティの問いかけに、兄は応えなかった。
 ガラス片が上空から山のように降り注いでいたのだ。
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