異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 ジェナロは呆れてものも言えない状態に追い込まれ、無言で踵を返そうとした時のことだった。

「旦那様。こちらを……」

 メイドは彼を呼び止めると、籠に入った毛糸と2本の編み針を差し出してきた。
 訝しげな視線を向けるジェナロに言葉が足りなかったと気づいた彼女は、事情を説明する。

「お嬢様が、お紡ぎになられました……。本日神獣と揃いのリボンを完成予定でしたが、体力の限界が来てしまい……」

 その言葉を耳にした彼はメイドからその籠を奪うと、なんの言葉を紡ぐことなく彼女に背を向けその場から立ち去った。

(あの子の母親を探している時も、こうだったな……)

 彼は自分がタイミングの悪い人間であると、よく自覚していた。

 ロルティの母親が行方不明になったと聞かされた時死にものぐるいで形跡を探したが、どこに言っても今と同じように言われたのだ。

 永遠と続く伝言ゲームの末に。
 ジェナロが知らされたのは、彼女の死で――。

(もしもこの屋敷に侵入してきた神殿の人間に、ロルティが命を奪われることになれば……)

 想像したくもない現実が訪れたなら、彼は再び心を閉ざしてしまうだろう。
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