【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「はぁ? もしかして、君。家に帰ってないのか?」
 ユースタスの問いに答えなかったことで、それは肯定として受け取られたようだ。
「え? 本当に? ライオネルさ~、何やってるの? それじゃ、奥さん。愛想を尽かせて出ていくんじゃない? 君、この結婚の意味、わかってる?」
「わかってるからこそ、帰っていない」
「どういうことだ?」
 面倒くさいやつに捕まってしまったという気持ちを、ライオネルは隠すつもりはない。
「言葉のとおりだ。今のところ相手が逃げる気配もない。定期的に手紙のやりとりはしているからな。そういった意味ではおまえの希望どおりの円満だ」
「それって円満っていうのか?」
 情けない声色をあげたユースタスは、信じられないとでもいいたげな感じで頭を左右に振った。
「円満だろう? そうでなかったら、あの研究所がここに人を派遣するか?」
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