【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 だからといって、ライオネルはけっして大柄な男ではない。細身であるが鍛えられた体格で、身長もユースタスより高いだけ。それを王太子は面白くないらしい。
「俺の外見は今さら変えることはできないな」
「いやいや、ちょっとこう、口角をあげて、にっこり笑ってみればいい。そうすればきっと、世の女性が君にも『微笑みの貴公子』という二つ名をつけてくれるはずさ」
 その二つ名はユースタスにつけられている。
「俺の顔のことなどどうでもいい。それで、本題はなんだ? 本当にこんなくだらない話をするためだけに俺を呼び出したのであれば、おまえのそのきれいな顔をぶん殴るぞ」
「おぉ、怖い怖い。いい加減、そうやって力でねじ伏せようとするのはやめなさい。むしろ、八つ当たりだよね?」
 まるで子どもをなだめるような言い方に、ライオネルも辟易する。だがイライラしていたから八つ当たりしていたのも事実。ライオネルが気軽に話せる人物は、ユースタスしかいない。
 チッと小さく舌打ちをして、彼に向き直る。
「そういう素直なところだけは褒めておくよ」
 そう言ったユースタスは、苦情の山の上に別の資料を置いた。
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