【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 仕方なくライオネルは釣書を手にした。
 相手の名は、アンヌッカ・メリネ。メリネ魔法研究所を立ち上げた所長の娘だ。年齢は十九歳。魔法研究者として研究所で働いているようだが、これといって特筆することはないようだ。顔立ちは年相応の女性で、可もなく不可もなく。隣にはべらせておくには申し分ない。
 ライオネルも昇進のためには結婚しなければならないとはわかってはいたが、積極的に結婚したいとは思ってもいない。そのため、積極的に相手を探すようなこともしていないし、すり寄ってくる女性は鬱陶しいとすら思っていた。
「俺に拒否権はないんだろ?」
 その言葉にユースタスはニタリと笑う。微笑みの貴公子とはほど遠いような、悪巧みを考えているような笑みだ。
「そうだよ、よくわかっているね。先ほども言ったように、メリネ研究所は力をつけてきているし、金さえ払えばどんな仕事も引き受けてくれるからね。それに最近では、他国にも魔導士を派遣しているようだ。だからさ、こちらとしては他の国やまして極右組織と手を結ばれたりしたら困るわけ。こっちの軍とも繋がっているわけだしね」
 なんでも屋のようなメリネ魔法研究所。その立場だから今のうちにこちらに取り込んでおきたいのだろう。
「それで、だ。メリネ研究所を取り込むために、その娘とこっちの誰かを結婚させようと考えたのさ。そうなったとき、その相手として君ほどふさわしい人間はいないだろう? 君はこれから軍の中心を担う人間。相手は、肥大化している民間の魔法研究所。この二つが手を結べば、この国は安泰だね」
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