【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
エピローグ
 ライオネルが屋敷に戻ってくると連絡があった。その日は、アンヌッカも慌てて仕事の休みをとった。
 結婚して約一年。その間、彼は軍の仕事が忙しいというのを理由に、決してこの屋敷に戻ってこなかった。
 それをいいことに、好き勝手していたのは認める。だから彼が戻ってくるという連絡を受け、アンヌッカもヘレナもあたふたしていた。
「奥様。ドレスはこちらがよろしいですかね? 御髪はどうしましょう?」
「ねぇ、どうして旦那様は急に戻ってくるなんて言い出したのかしら?」
 ヘレナにドレスを着付けてもらいながら、アンヌッカはぼやく。
 毎日のように、軍本部では顔を合わせているライオネルだが、今までと変わったところなど一切なかった。まして、屋敷に戻るようなことなど、彼は一言も言っていないはず。
「やっぱり、奥様のことが恋しくなったのですよ」
 ヘレナは明るくそう言うが、ライオネルがそういう性格でないのを知っている。
「戻ってくるなら戻ってくるでいいけれど。休暇を利用してくれればいいのに」
 おもわずアンヌッカの心の声が口から漏れ出た。仕事を休むのが心苦しいからだ。
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