【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「そういや、アン。ライオネル殿とは、うまくいっているのか?」
 マーカスが耳元でささやくから、おもわずアンヌッカは噴き出しそうになった。
「お兄様。いったい、何をおっしゃって……?」
「いや。結婚式にすら姿を現さなかった失礼な義弟だが、そろそろ僕たちのところに挨拶に来てもいいのではないかと思ったのだよ。三か月の魔獣討伐を終え、首都に戻ってきたと聞いたからな」
 マーカスが言ったことは事実だ。ライオネルが中心となって行っていた魔獣討伐は収束を見せ、つい先日、彼らはこの首都に戻ってきたばかりだ。
「お兄様。残念ながら、わたしはまだ一度も旦那様にお会いしておりません。まだお仕事が忙しいらしく、当分、家には帰れそうにないと、お手紙をいただきました」
「はぁ?」
 ざわっと事務所内に緊張が走る。
「お兄様。声が大きいです。落ち着いてください」
 どうどうと、興奮する馬をなだめるかのように、アンヌッカが両手を上下させた。
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