【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「なるほど……つまり、アンがアンじゃない人物の名を名乗ればいいってことだな?」
マーカスもアンヌッカの考えに気づいたようだ。
「そうです。もともと、古代文字の解読依頼が来たときも、誰が担当しているかなどは漏れないように、必ず所長の名前で契約しますよね?」
それは解読を担当した一人に、責任を負担させないようにという配慮のためだ。
「ですから、旦那様はわたしが古代文字に精通していることなど知りません。それに、旦那様はわたしの顔なんてご存知ないのでは? 仮にわたしがサリーの名前を借りて、軍の研究所へ行ったとしたら、旦那様はわたしをサリーだと思うわけです」
「だが、サリーはサリーでこちらでの仕事をこなしてもらわなければならない。そうなれば、サリーが二人いることになってしまう……」
「お父様。サリーの名は例えばですよ。知っている人の名前を出したほうがわかりやすいから借りただけです。つまり、わたしがわたし以外の名前を使えばいいわけです」
アンヌッカの話をマーカスは腕を組んで黙って聞いていた。途中、何か言わんとしたのか唇を開きかけたが、すぐに閉じられる。
自分の意見をすっかりと言い終えて満足しているアンヌッカは、父親と兄の顔を交互に見る。
マーカスもアンヌッカの考えに気づいたようだ。
「そうです。もともと、古代文字の解読依頼が来たときも、誰が担当しているかなどは漏れないように、必ず所長の名前で契約しますよね?」
それは解読を担当した一人に、責任を負担させないようにという配慮のためだ。
「ですから、旦那様はわたしが古代文字に精通していることなど知りません。それに、旦那様はわたしの顔なんてご存知ないのでは? 仮にわたしがサリーの名前を借りて、軍の研究所へ行ったとしたら、旦那様はわたしをサリーだと思うわけです」
「だが、サリーはサリーでこちらでの仕事をこなしてもらわなければならない。そうなれば、サリーが二人いることになってしまう……」
「お父様。サリーの名は例えばですよ。知っている人の名前を出したほうがわかりやすいから借りただけです。つまり、わたしがわたし以外の名前を使えばいいわけです」
アンヌッカの話をマーカスは腕を組んで黙って聞いていた。途中、何か言わんとしたのか唇を開きかけたが、すぐに閉じられる。
自分の意見をすっかりと言い終えて満足しているアンヌッカは、父親と兄の顔を交互に見る。