【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 手袋越しに感じる装丁の飾りの凹凸すら、時代によって異なる。この手触りであれば、今から千年以上も前のものだ。
 装丁から推測される魔導書の年代を紙に書き留めていく。ただし、この魔導書を汚してはいけないため、紙は隣の机に用意してあり、魔導書を見ては隣の机に移動するという動きを繰り返す。
「それだけ動くと大変ではありませんか? 僕たちはその魔導書が汚れても気にしませんから」
 あっちに行ったりこっちに行ったりと移動するアンヌッカがわずらわしく思ったのかもしれない。
「それはダメです。この魔導書を汚してしまったら、わたしはショックで寝込むかもしれません」
 彼らがアンヌッカほどこの魔導書に思い入れがないことなど、重々承知だ。それは先ほど、魔導書を受け取ったときに実感していた。
 この室内で、魔導書に触れるのに絹手袋をつけているのはアンヌッカただ一人。
 だからってそれを彼らに指摘するわけでもない。これはアンヌッカの気持ちの問題だからだ。
「そうですか。こちらから見ていて、疲れないかなと、そう思ったので……」
 アンヌッカに声をかけた男性は、ばつが悪そうに肩をすくめる。
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