【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「なんだと?」
 忙しいとライオネルが言ったばかりだというのに、ユースタスは帰る気はなさそうだ。仕事の邪魔をしに来たのかと疑ってしまうほど。
「いや、だってあの子。君の親戚筋になるわけでしょ? 奥さんから聞いてない?」
「会ってないからな」
 結婚式当日の朝、ゾフレ地区に魔獣が出たという報告を受け、婚礼用衣装に袖をとおす前に軍服に着替えた。すぐさま、部下らを招集しゾフレ地区へ向かったのが半年前。
 三か月ほどゾフレ地区に滞在し、魔獣が襲ってくる恐れがなくなってから、幾人か人を残して軍を引き上げた。人を残したのは、ゾフレ地区にある魔塔の確認のためだ。
 魔獣が魔塔に逃げ込み、それを討伐した際に、隠されていた地下室が発見されたのだ。こうなれば軍が入って、中身を確認せねばならない。崩れる恐れがないかなど、安全が確認できたところで人を入れる。そこは魔導書の宝庫だった。しかも、五百年から千年ほど前の魔導書のようだ。この魔導書らを解読するためには時間がかかるため、まずはこれを外に運び出すことにした。
< 98 / 237 >

この作品をシェア

pagetop