【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
パネルディスカッションの後
 再びメイン会場に戻り、まだ人がまばらな会場内を前方へ進んでいく。

 今度は永真先生の発表がよく見えるようにと、前から五列目の真ん中に席を取った。
 
「ああ、君たちも来たんだ」

「黒川先生!! 鹿島先生も、お疲れ様です!」

 私たちの前の列には教授と准教授が座っていた。
 お二人も永真先生の発表を見に来たそうだ。

「先生、聞いてください。
もう朝から目も当てられないほど熱々なんですよ。
汐宮先生と伊原さん」

「ちょっ、何言ってるんですか!?」

 熱々なんて、何もしてないじゃない! 
 ちょっといつもより甘い雰囲気だったかもしれないけど。

「へぇーそうなんだ。あの永真がねぇ……」

「黒川先生、僕いい仕事しましたよね。
叶恋ちゃんを連れてきたの、僕ですからね」

「ああ、鹿島先生のおかげだな。姉も喜んでいるんだよ」

 鹿島先生までー。

 とはいえ、これは先生方が私をからかうための挨拶のようなものだと最近気づき始めた。

 皆さん、からかって楽しんでいるだけなのだろうと思うと、少し気が楽だった。
 
 舞台上には、パネルディスカッションに出るパネリストの名前が書かれた席が並んでいる。

 永真先生は第3演者だ。客席が暗くなり、影マイクで司会の先生の紹介が始まった。

 こんな大きな会場で永真先生が発表するのかと思うと、私まで緊張してしまう。

 発表が進み、ついに第3演者の永真先生の番が来た。
 堂々とした話しぶりだ。

「汐宮先生の博士論文は高く評価されていてね、今発表しているのはその続きってところかな。
ほんのわずかだけど、さらに有用性が証明されたことを発表しているんだ」

 森下先生がど素人の私に小声で説明してくれる。

「彼のインパクトファクターは役職者並みだ。
これからの伸びしろを考えたら、まず間違いなく次世代の教授候補だね」

 この会場でその言葉を聞かなければ、それがどれだけすごいことか私にはわからなかっただろう。

 でも目の前で発表している永真先生は、エリート中のエリートなのだと誰が見てもわかる。
 素晴らしい発表ぶりだった。

 「――――は、予期せぬ術後脳梗塞を回避する一助となる有用性が認められた。――以上です。
ご清聴ありがとうございました」

 会場内に大きな拍手が沸き起こる。

 パネリスト全員の発表が終わり、司会の先生のもと、ディスカッションが始まる。

 永真先生はどんな質問に対しても、落ち着いてわかりやすく、真摯に受け答えしていた。

 そして自分より年配の先生方と臆することなく論じ合っていた。

 素人の私が見ても、永真先生は鮮烈なデビューを飾ったのだとわかった。


 ◇ ◇ ◇
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