【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「それより俺は……なぜあんな奴と付き合っていたのか不思議だ。そっちの方が気になる。
悪いが見る目がないと思うぞ」

「……当時は上辺しか見ていなかったんです。
イシハラの受付にいる私に、いつも優しい言葉をかけてくれていました。
私は彼の作られた部分しか見ていなかったんですね。
付き合い出してすぐに退職して、あとはメッセージでのやり取り。それも、今考えたら、中身のない優しさの定型文みたいなものでした。
だからその……ゴホン……ご存知のように、深いお付き合いもなかったし、何も見えていなかったんです」

 あの時がハジメテだったんだから、深い付き合いではなかったことはわかるはずだ。

「あ、ああ……そ、そうだったな……」

 私の含みに気づいたのか、永真先生も少し顔を赤らめている。

 突然妙な雰囲気になり、そこからしばらく無言になってしまった。

「この辺りでよろしいですか?」

 運転手さんが華やかな門を指さした。

「え、中華街……?」

「はい。降ります」

 そういえば、どこに行くのか聞く余裕もなくタクシーに乗ったんだわ。あまりにも動揺していたから……。
 
「来たかったんだろう?」

「は、はい!」

 まだ心は傷つけられたままだ。
 でもせっかく私のために中華街まで連れてきてくれた永真先生の気持ちを無駄にしたくはない。

「もうあいつの事は気にするな。
俺がなんとかするから」

「なんとかって……」

「今は何も考えず、楽しめ。
せっかくここまで来たんだから」

「永真先生……」

「行くぞ」

 私の手を引いて、永真先生が歩き出す。

 初めて来た横浜中華街は熱気に溢れていた。
 各店舗の店先には、食べ歩きに良さそうな名物を求める観光客の列が出来ていた。
 もくもくと上がる湯気に色々な食べ物の匂いが混じり、食欲をそそる。

「あ! 焼き小龍包!」

「ああぁぁぁ! ハリネズミまん〜。これ可愛すぎる!」

「きゃー! パンダまんも捨てがたい〜」

 スマホでチェックしていた中華街の名物を目の前に、私の気持ちは一気に上向きになる。

 こんな素敵な観光スポットで落ち込んでなんていられないと思い直したのだ。
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