【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「おい! 伊原って医局秘書はいるか?」

 脳外科医局の扉をバーンと開けて、一人のドクターが入ってきた。
 何事かと振り返ると、濃紺のスクラブを着た背の高いドクターが立っていた。
 シャープな型のシールドグラスをかけているので目元が分かりづらく、威圧感が増していて怖い。

「あの、私ですが……」
「お前か。うちの母親に当直の…………レン?」
「え?」

 レン? 私の名前は叶恋だ。レンではない。
 ただ、このレンという名前には覚えがあった。
 一度だけ『レン』と偽名を乗ったことがある。

 そう……あれは2ヶ月前のこと。
 聞き取れなかったのをいいことに、そのまま押し通してしまった。

 あの時の人に声が似ている気はするけれど、まさかね? でもこの特徴的な低い声は……。

 スクラブの胸ポケットに付けているネームホルダーを確認すると、そこには【汐宮】という文字が。
 ということは、この人がさっきのお母様の息子の汐宮永真先生?

 ハッ!『えいま』じゃななくて『エイシン』だったの!?

「……お前がどうしてここに……」
「あ、あの」
「ただいまー! あれ、汐宮先生がこんなところにいる。珍しいですね」

 菜々ちゃんが帰ってきた。

「滅多に医局に寄り付かないのに。どうしたんですか?」
「川崎、こいつは?」
「今日から脳外医局の秘書になった伊原叶恋さんです」
「伊原……かれん?」 
「叶う恋って書くんですって。お顔の通り可愛い名前でしょ?」

 わぁ! 菜々ちゃん余計なことを〜。
 あの時、エイシンさんが聞き取れなかった名前を言っちゃった。

「……ほぉー、叶恋ね。……偽名だったって訳か」
「な、なんのことでしょう?」
「覚えていないとは言わせないぞ」
 
 そう言って、汐宮先生はシールドグラスを取った。
 あぁ……やっぱりあの時の人!

「あれ、汐宮先生と叶恋ちゃんって知り合いだったの?」
「い、や……その……」
「……川崎、ちょっとこいつ借りていいか?」

 ひぇっ……何をするつもり?
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