【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「幼いながらにも、私を気に入ってくださったのだということはわかりました。
私が右手で包丁を持てたら丸く収まったんだろうということもわかりました。
そこで祖母が言ったんです。『やっぱり直しておけばよかった』って」
「……」
「祖母もやはり昔の人だったので、私がスプーンを持ち始めた頃から矯正すべきだと言ってたんです。
そのままでいいと言ったのは母。
あーこれはマズイな、帰ったら揉めそうだなと、子供心に思いました」
それは倫子の部屋では語られていなかった話だ。
たしかあの時は『テレビを見ている小さい子が混乱しないように、右手で包丁を持って欲しい、と言われて練習した』とだけ言っていたから。
「だから私、その場で言ったんです。
『右手、練習します!』って。
私が頑張れば家庭内で揉めることはないし、祖母も母も選ばれたら喜んでくれるはず。
もちろん、せっかく受けたのだから、私自身が合格したかったんですよ。
だから頑張ることにしました」
これが、今でも叶恋が右手で包丁を持つ本当の理由だったのか。
今の話は、勤め先をスパッと辞めた決断の片鱗が伺える。
小さい時から大人の顔色を伺って、どうすれば丸く収まるか考えてきたんだな。
叶恋の原動力はやはり家族なんだろう。
「それから製作側も設定を変えてくれて、料理を全くやったことのない女の子が、料理をマスターしていく番組ということにしてくれたんです。
実際、左手なら出来ることも、右手では全くでしたから『料理未経験』なんですよ。
本当はオーディションのためにそこそこ頑張ってたんですけどね」
笑いながら言うが、左手ならサクサク出来ることを、右手に持ち替えて出来ないふりをするのだ。悔しかったことだろう。
「私が右手でまともに包丁がもてるようになったのは、番組が始まって1年経った頃でした。
それからなぜかそのエピソードが、児童雑誌の保護者向け付録に載ったんです。裏ネタみたいな感じで。
倫子さんは私の経歴で真っ先にそこに目がいったそうで、あの時そのお話をされたんです。
懐かしいですね……」
倫子はリベラルな考え方をすることで有名だ。
だからこそ今の地位を築いている。
きっと、理不尽な偏見に振り回された子供がいるという真実を、自分の番組で取り上げたかったのだろう。
もちろん、かれん本人の頑張りも讃えようと――。
「俺は、初めてかれんを見た時、下手だと思ったことを恥じた。そんな苦労をしていたとは、まさか思ってもみなかったから……」
その日の夕方、久しぶりに『クッキングアイドルかれん』を見てみたら、驚く程に包丁さばきの上達したかれんがいた。
もちろん右手で包丁を持っていた。
その時の俺は利き手が使えず、左手で何もかもこなさなければならなかったから、かれんの苦労がどれほどのものだったのか、身に染みてわかった。
ましてや刃物類は、矯正しても難しいと言われているのに、包丁を右手で扱っているのだから、根性があるとしか言いようがない。
純粋に尊敬した。
かれんに興味を持ったのはそれからだ。
私が右手で包丁を持てたら丸く収まったんだろうということもわかりました。
そこで祖母が言ったんです。『やっぱり直しておけばよかった』って」
「……」
「祖母もやはり昔の人だったので、私がスプーンを持ち始めた頃から矯正すべきだと言ってたんです。
そのままでいいと言ったのは母。
あーこれはマズイな、帰ったら揉めそうだなと、子供心に思いました」
それは倫子の部屋では語られていなかった話だ。
たしかあの時は『テレビを見ている小さい子が混乱しないように、右手で包丁を持って欲しい、と言われて練習した』とだけ言っていたから。
「だから私、その場で言ったんです。
『右手、練習します!』って。
私が頑張れば家庭内で揉めることはないし、祖母も母も選ばれたら喜んでくれるはず。
もちろん、せっかく受けたのだから、私自身が合格したかったんですよ。
だから頑張ることにしました」
これが、今でも叶恋が右手で包丁を持つ本当の理由だったのか。
今の話は、勤め先をスパッと辞めた決断の片鱗が伺える。
小さい時から大人の顔色を伺って、どうすれば丸く収まるか考えてきたんだな。
叶恋の原動力はやはり家族なんだろう。
「それから製作側も設定を変えてくれて、料理を全くやったことのない女の子が、料理をマスターしていく番組ということにしてくれたんです。
実際、左手なら出来ることも、右手では全くでしたから『料理未経験』なんですよ。
本当はオーディションのためにそこそこ頑張ってたんですけどね」
笑いながら言うが、左手ならサクサク出来ることを、右手に持ち替えて出来ないふりをするのだ。悔しかったことだろう。
「私が右手でまともに包丁がもてるようになったのは、番組が始まって1年経った頃でした。
それからなぜかそのエピソードが、児童雑誌の保護者向け付録に載ったんです。裏ネタみたいな感じで。
倫子さんは私の経歴で真っ先にそこに目がいったそうで、あの時そのお話をされたんです。
懐かしいですね……」
倫子はリベラルな考え方をすることで有名だ。
だからこそ今の地位を築いている。
きっと、理不尽な偏見に振り回された子供がいるという真実を、自分の番組で取り上げたかったのだろう。
もちろん、かれん本人の頑張りも讃えようと――。
「俺は、初めてかれんを見た時、下手だと思ったことを恥じた。そんな苦労をしていたとは、まさか思ってもみなかったから……」
その日の夕方、久しぶりに『クッキングアイドルかれん』を見てみたら、驚く程に包丁さばきの上達したかれんがいた。
もちろん右手で包丁を持っていた。
その時の俺は利き手が使えず、左手で何もかもこなさなければならなかったから、かれんの苦労がどれほどのものだったのか、身に染みてわかった。
ましてや刃物類は、矯正しても難しいと言われているのに、包丁を右手で扱っているのだから、根性があるとしか言いようがない。
純粋に尊敬した。
かれんに興味を持ったのはそれからだ。