【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「26年間、お世話になりました。お父さん、お母さん、ありがとう」

「叶恋〜〜」

「お父さん!?」
 
 ウグッ、ウグッと泣き出す父。
 病気を患って右半身が不自由になった時でさえ泣かなかったのに、まさかここで泣き出すとは思ってもみなかった。

「かれん〜行っちゃうの?」
「かれん〜もう帰ってこないの?」

 父につられて双子まで泣き出す始末だ。

「こらこら、お父さん! 
お父さんが泣くから双子もつられちゃったでしょう! 
叶恋の旅立ちの日だっていうのに、笑って送り出さないと」

 お母さん……。
 この泣き虫な男たちを、母ひとりに託していくのはとても気が引ける。

 とはいえ、嫁ぎ先は車で5分。
 自転車だと近道出来るから10分もかからない距離だ。嫁入りの荷物にはちゃんと自転車も入っている。

「司馬も生馬もいっぱいお母さんとお父さんの手伝いをするのよ? 
すぐに帰ってくるからね!」

「何言ってるの。すぐに帰ってこられちゃ困るわよ」

 いや、そういう意味じゃなくて!

「これからは永真先生のことを一番に考えて、お父さんのことは、お母さんと双子に任せなさい。
この子達ももすぐに大きくなるわ。
叶恋がいなかったら案外早くしっかりするかもよ? 
叶恋が幸せになることを一番に考えるの。わかった?」

「お母さん……」

「そうだな……。叶恋、幸せになるんだぞ」

「……うん。私、幸せになるね。
でも本当にいつでも手伝いに来るし、遠慮なく連絡してきてね。
永真さんも心配してくれているし」

 私の旦那様は、私の家族のことをとても気にかけてくれているからね。

「わかったわ。頼りにしてる! 
ほら、もう行きなさい。
引越し屋さんが待ってくれているんでしょう?」

「うん。……じゃあ、行ってきます」

 どうせすぐに会える。
 そうわかっていても少し寂しくて、少し不安で、でもワクワクするような感情が入り交じった、そんな気持ちだった。

 トラックの助手席に座る私に、父が杖をつきながら出てきて叫んだ。

「叶恋! 幸せになれ!」
「かれん、幸せになれー」
「かれん、幸せになれー」

 私はグッと涙を堪えてにっこり笑い、窓ガラス越しに手を振った。
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