【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 あっという間に永真さんのマンションに到着した。

 実家と新居は隣町だが、その隣接している側の端と端。こんな便利な環境はなかなかないと思う。
 私は恵まれているな。

 あの日渡された鍵はそのまま私の鍵となり、もちろん今も持っている。

 でも今はあえて到着を知らせるため、エントランスから部屋番号を入力し、インターフォンを鳴らした。

「はい」

「叶恋です。引越し屋さんが到着しました」

「今開ける。下りようか?」

「いえ、大丈夫です」

 エントランスにマットを敷いていた引越し屋さんが戻ってきた。

「エレベーターにも養生パネルを貼りますので、先に上がっていてください。
7階に着いたら住戸のインターフォンを鳴らします」

「わかりました。
あの、鏡台からお願いしますね」

「はい、お母様から伺っております」

 受け売りだけど、嫁入りの時は鏡台から荷物を搬入する。
 それは母が祖母から教わり、私にも教えてくれたこと。

 鏡は古くから神様が宿ると信じられ、鏡台を最初に入れることで、新しい家庭に神様の加護をもたらし、家内安全や無病息災を祈る意味があるのだ。

 だから、鏡台を最初に入れてもらうのはとても大事なことだ。
 嫁入り道具の荷入れは一生に一度のことだから。

「あ、奥さん!」

「え」

 お、奥さん!? 奥さんって私のことよね?

 突然の呼びかけに驚く。

 そうだ、私もう奥さんなんだ……。
 当たり前の呼び方なのに、他人に言われて初めてそのことを自覚する。
 
 本当に結婚したんだ!
 もう奥さんなんだ!
 
 そう思うとどうも面映ゆい。
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